鬼さんこちら
手の鳴る方へ
こっちにも・・・いない、か?
がさがさと草を掻き分け林の中を慎重に進む。
すでに体は疲れ果てて息も切れ切れ、何処か休める安全な場所はないのかと先ほどから周囲を警戒しながら歩き続けている。
っとに・・・なんでこんなことになっちまったんだ・・・?
「鬼がこの世にアンタだけ・・・ってことは無えだろ?」
ことの始まりはこの一言からだった。
――数時間前の事、西海の鬼こと長曾我部元親は奥州へと足を運んでいた。
以前も一度奥州へと来たことはあった。その時は別の理由で来た時だったが。そしてその時に思ったコトで
伊達政宗は自分と気が会うと確信していた。何より部下への接し方もまるで自分と意思が繋がっているかのようにそっくりだった。
そこでだ、と再び自ら奥州へと出向き相手に敵意を感じさせぬ様に同盟を組んでみてはどうかと考えた。
そしていざ到着してみると奥州はなにかの祭りがあるかのように騒がしかった。
あまりに異常な騒ぎを不審に思い近くにいた一人に聞いてみることにした。
「なぁアンタ、俺ァ今日此処についたばっかりなんだが・・・なんてったってこんなに騒がしいんだ?」
「アンタ知らねえのか?なら知っといたほうがいい、今奥州筆頭の伊達政宗様が家出中だそうだ!ははっ傑作モンだよなァ、そういうお年頃なのかね・・・っておっと。口は慎まないとな。」
い・・・家出ェ?
あまりに唐突の単語に俺はきっと今すごい呆れた顔してるんだろうなァと薄く頭の中で笑った。
「それにしたってなんで急に家出なんか・・・」
じ とっ、
そんな効果音が出せそうな気配というより視線を感じた。
敵か?・・・と思ったがそんな殺気も感じられなかったので気のせいか?なんて機微を返してその場から去ろうとしたその時だった。
がさっと音がしていきなり近くにあった草の中に引っ張られた。痛ェ。誰だこん畜生・・・もしかしてとは思うが、まさか・・・。
そんな苛立ちに思いっきり顔を歪ませて振り向くとそこには案の定、情けない奥州筆頭の姿があった。
「よ、よぉ・・・。」
「よう・・・天上天下唯我独尊・・・そんな独眼竜さんがこんな所で何をしてる、ん、だ、よ!」
最初こそは元親も笑顔を装っていたが声には紛れも無い怒気が含まれていた。
「い・・・いや、その・・・」
「包み隠さず全部言え!」
「・・・Ah~・・・・・・Ok・・・。」
鬼のような形相に押し負けたのか、情けない姿の奥州筆頭はため息を一つ漏らして話し始めた。
「実はな・・・先日・・・」
「如何した。」
逃げられないように正座をさせて真正面からその目を見据える。めちゃくちゃ動揺してるよ・・・コイツ・・・。
「俺の許嫁が来たんだ。」
・・・は?え、それだけ・・・?
「・・・え?・・・・・・。」
「そんでもって明後日には式を挙げるなんて言うんだぜ?本当我侭な奴らだ・・・」
「我侭なのはテメーだろーが!このバカ筆頭!」
「だ、だって・・・俺にだって決定権とか・・・」
「うるせえよ!兎に角御目出度い事なんだから良いだろうが!」
本当にコイツ殴り飛ばしてやろうかと、アレ?俺こんな奴に似てるの?・・・なんかやっぱり嫌になってきた・・・うん。
「それに・・・好きな奴だって・・・いる、し・・・。」
好きな・・・奴?おお、やっとまともな発言したよ。なんだ恋人と許嫁の仲破ってまで一緒になりてえってか・・・なかなか夢のある奴!
「で?その娘はなんつー娘なんだ?」
「ガール・・・じゃ、ないな。もっと・・・なんつーか・・・大人びてる・・・」
「ガ、ガールゥ?・・・っつか年上か!?お前も中々やるじゃねえか!流石俺が見込んだだけ・・・」
「そんでもって綺麗な銀髪でよ、紫が良く似合って笑顔がまためちゃくちゃキュートなんだぜ!」
・・・・・・へぇ、
「片目を隠しちまってるんだがまァ俺とペアルックじゃねえかwみてェな感じでよ!」
ん・・・・・・・・・・・・・・?
「そしてしまいにはそいつは四国では西海のおに・・・」
「ちょっと待てやゴラァアアァァー!!!!」
「What?どうした元親?」
「なんか少しおかしいぞ?しかも気安く名前呼びすんじゃねェ!」
「AH~・・・そんなコト言うなよ元親。俺たちの中だろ?」
そんな関係持った覚えなんて無いんですけども。
もはや当てる言葉すら失って硬直していると目の前のソイツは誇らしげにこう言いやがった。
「だから俺はお前のコトが好きなんだよ!元親!」
ちょっと待って、話に頭がついて行ってないから・・・ちょ・・・ええええー?
っつか何コイツゥゥゥゥゥゥ!!!ホモ!?ホモセクシュアルなの!?
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